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思考散逸

ネットの宇宙の片隅の論理と思考の実験劇場

『大逆転裁判』を弁護する~本作は本当に失敗なのか?弁護側による反証 《前編》

ゲーム 大逆転裁判 逆転裁判

思った以上にまとめるのに時間がかかりましたが、前回の記事で予告したとおり、『大逆転裁判』についてさらに追求を続けます。

 

nyanmage00.hatenablog.com

 

予告と微妙に違うタイトルになっておりますが、初見で来てくれた方にもわかりやすいように変更してみました。

ネタバレ全開『大逆転』のネタバレする箇所までたどりつきませんでした。今回は『逆転裁判』と『大逆転裁判』のテーマを比較する為、主に過去作を振り返る内容になっております。逆裁1~5未プレイの方の為、できるだけ根幹に触れるネタバレは避けたつもりですが、どうしても気になる方は読み飛ばしてください。

では、よろしくお願いします。

 

主人公《成歩堂龍ノ介》と前作主人公《成歩堂龍一》との違い

 そっくりな外見で、成歩堂家の先祖と子孫という関係のこの二人。
ゲーム中の愛称もどちらも《ナルホド》で統一され、一見しただけでは“緊張すると目が泳ぐ”などの細かい動作以外はあまり差異の見られない二人ですが、一つ明確な違いがあります。

ピンチに陥った時、『ふてぶてしく笑う』『発想を逆転』できるかどうかです。

そしてこの差は、実は二人の立ち居地を暗に示すものであると考えられます。

なぜなら、この二つのスキルは、《成歩堂龍一》が師匠である《綾里千尋》から受け継いだものだからです。

すなわち、『ふてぶてしく笑う』『発想の逆転』の有無はそのまま『師匠』の有無を示しているのです。

 

 

逆転裁判』シリーズを振り返る~『逆裁』のテーマとは何か?

ここで一度、過去作を振り返って、『逆転裁判』(以下『逆裁』)シリーズの流れを確認したいと思います。
寄り道になるようですが、“『逆裁』らしさ”とは何か、という点を探るために必要なことだと考えますので、少々の間お付き合いください。

 

“『逆裁』らしさ”の原点『1~3』~弁護士《成歩堂龍一》の追求するもの

 『逆裁1~3』で繰り返し出てくるフレーズがあります。

《信じる》《真実》この二つです。

逆裁1』で、右も左もわからない新米弁護士として登場した《成歩堂龍一》ことナルホドくんに、千尋さんは所属弁護事務所長として、ゼロから弁護士としての心得をたたきこみます。

彼女は言います。

「被告人が“有罪”か“無罪”か?私たちには、知りようがない。
 弁護士にできるのは彼らを信じることだけ。
 そして彼らを信じるということは、自分を信じるということなの。」

「強くなりなさい。・・・・もっと」  (『1』1話より)

そういい残してこの世を去った千尋さん。
ナルホドくんは、千尋さんの志と事務所を継いで弁護士を続けます。

しかし綾里の家に生まれた千尋さんは、死後も“霊体”となって、ここぞというときにアドバイスをくれる心強い存在でもありました。

「なるほどくん!
 ダメよ!ここであきらめちゃ!
 (中略)いっそのこと、発想を逆転させましょう!」(『1』1話より)

「弁護士はね。ピンチのときほど、ふてぶてしく笑うものよ。」(『2』2話より)

師匠としての千尋さんが与えてくれた“遺産”とでも言うべき言葉は、ナルホドくんが苦しい時の指針として、何度も思い返す拠り所となります。
死後もなお導いてくれる師匠、信頼できる友人たちとともにナルホドくんは経験を積み重ね、『弁護士が真に追求すべきもの、それは《真実》』という答えにたどりつくのです。
そして、それは《成歩堂龍一》が師を越えた瞬間でもありました。

つまり。

逆裁1~3』は、新米弁護士《成歩堂龍一》が、師匠の示した道標を頼りに、自らの《信じる》心をエネルギーとして“《真実》の追求”という答えに辿りつくまでの物語でした。

 

失速する『4』~答えを出すのは誰か?主役不在問題

 さて、《成歩堂龍一》の物語は『3』まででひとまず終わり、『4』では新主人公《王泥貴法介》の物語が始まる・・・はずでした。
しかし、『4』は販売数としては好調だったものの、作品としての評価はいまひとつという不本意な結果になってしまいます。
なぜか。感想は人の数だけあると思いますが、私は『4』が主役不在の物語だったからと考えます。

『4』での《王泥貴法介》ことオドロキくんは、『1』の《成歩堂龍一》と同じく、弁護士になったばかりの新米です。
牙琉法律事務所の新人である彼は、所長の牙琉霧人とともに初弁護の任につきますが、あろうことか霧人はその法廷で真犯人として逮捕されてしまいました。
オドロキくんはいきなり師匠を失ってしまいます。ここまでは『1』とあまり変わりませんが、そのあとの流れは大きく違います。

まず、霧人を告発したのはかつてのヒーロー《成歩堂龍一》。
あのナルホドくんと同一人物とは思えないほどすさみきった成歩堂は、師匠を失って行き場をなくしたオドロキくんを《成歩堂芸能事務所》(のちに成歩堂なんでも事務所)に迎えることはしますが、彼に対し特にアドバイスを与えることはありません。
オドロキくんは師匠不在のまま、最後まで戦わねばなりませんでした。
そして逆裁シリーズ通してのテーマである『弁護士とは何か』という問いに、主役であるはずの彼が答えを出すことは、ついにできませんでした。

 

ここで話は『1~3』に戻ります。
私たちが“『逆裁』らしい『逆裁』”と考えている『1~3』ですが、意外にも各作品ごとに取り上げているテーマはまちまちです。
原点にしてエッセンスが凝縮されている『1』。
“もし、依頼人が罪を犯していたら?”と、現在に至る課題を提起する『2』。
師匠《綾里千尋》を超える事を通して、弁護士の目指すものを問う『3』。
しかしいずれの作品中でも、主人公成歩堂龍一が“《信じる》事を通して《真実》を目指す”という方向性は変わっていません。*1

ここに“『逆裁』らしさ”を紐解く鍵の一つがあると考えます。

振り返って、『4』はどうだったでしょうか?
『4』ではメイスンシステムなるものが登場します。 
裁判員に事件の概要をわかりやすく体感してもらうため開発したとされるこのシステムのために、プレイヤーの視点は少なくても3箇所に移動しなくてはなりません。
本来の主人公《王泥貴法介》、7年前事件発生時の《成歩堂龍一》、そして《裁判員》の三つです。この視点移動は全部4話のシナリオ中に行われ、プレイヤーにとって大変混乱しやすい構造になっています。

問題はさらにあります。
まず、《王泥貴法介》は、作品中誰とも信頼関係を築けていません。
かつてナルホドくんが小学校時代の旧友を無条件に信じ、その蛮勇ともいえる青臭さを発揮して戦った『1』とは対照的です。
何度か確認したとおり、逆裁シリーズでの《真実》への推進力は《信じる》心です。そのため、オドロキくんの物語は常にエネルギー不足による失速という問題にさらされます。なぜなら、彼には信じるものがないからです。
また、『4』のキャッチコピーは“新章開廷!!”でした。
しかし、実際のシナリオでは《真実》を追求しているのが、視点移動先である《成歩堂龍一》であるため、主役不在感はさらに増しています。

『4』の不評の原因は複数絡み合っていると思われますので、これが全てだとは思いません。しかし、仮にオドロキくん自身が“依頼人を《信じる》とはどういうことか”、或いは“《真実》を目指すために必要なことは何か”という答えをどちらか一つでも出すことができていれば、『4』の評価は今と比べてどうだったでしょうか。*2
少なくても“主人公が問題解決を通して成長する”というヒロイズムは実現できていたのではないか、そう思われてなりません。*3

 

再構成された『逆裁』群像劇『5』~“『逆裁』らしさとは何か?”再び 

そして2013年に発売された『逆転裁判5』。『4』から実に6年も時間が経過しています。制作までの紆余曲折を伺わせます。
完全新作となった『5』は、おそらく“逆裁シリーズの建て直し”を最大の目標として制作されたのでしょう。『4』との整合性を捨てて、別の時間軸の物語として再構成された節が見受けられます。*4
具体的には以下の2点です。 

  1. 主人公3人のキャラクター性の差別化
  2. “『逆裁』らしさ”を整理・再構成したシナリオ

 

まず1.からです。初登場の《希月心音》についてはひとまずおいておきます。*5
『4』での《成歩堂龍一》と《王泥貴法介》は、同じプレイアブルキャラクター同士で性質が大変似通っており、プレイヤーの視点が移動した際に混乱しやすいという難点がありました。
『5』では成歩堂に対しては“経験豊富な頼れる上司”、王泥貴には“未熟だが面倒見のよい熱血漢の先輩”という異なる性質が与えられ、また3人の主人公からみた各々の側面という部分も、キャラクターに厚みを加えるのに一役買っています。
特に面白いのは、シナリオ後半で依頼人を《信じる》成歩堂に対し、王泥貴をアンチテーゼとしての役回りで用いたことです。
これによって、『5』では二人を完全に別のキャラクターとして切り離すことに成功し、王泥貴を一人の魅力ある人物として描くことに成功しています。

 

2.『5』のシナリオで特徴的なのは、過去作で成立した“『逆裁』らしさ”を全面に押し出す構成になっていることです。
これまで確認してきた《真実の追求》、このテーマは『成歩堂なんでも事務所』に属する弁護士全員が共通認識として持っていることがシナリオ中で見受けられます。
さらに、『4』で見られなかった《発想の逆転》も再び登場します。
2話と3話はそれぞれ王泥貴と心音の視点で進むシナリオですが、二人ともここで初めて《発想を逆転》させることで状況を打開するのです。*6
また、成歩堂のもう一つの武器であった『ふてぶてしく笑う』もしっかりと引き継がれています。3話で心音に対し、王泥貴がアドバイスする場面があります。

「希月さん。さあ、笑顔だよ。
弁護士はピンチのときほど、ふてぶてしく笑う・・・・だろ?」

これは成歩堂から王泥貴へ、弁護士としての心得が継承されたことを示しています。
『1』で千尋さんが残してくれた“遺産”は、成歩堂の血肉となり、『5』で王泥貴と心音の二人にも正しく受け継がれたのです。

 

さて、長くなりましたが、ここまで『逆裁1~5』までの流れを振り返り、シリーズの共通テーマが《真実の追究》、そしてその推進力としての《信じる心》の2点であることを確認してきました。
次回はいよいよ『大逆転裁判』との比較に入ります。
まとめるまでにまた時間がかかるかもしれませんが、気長にお待ちいただければ幸いです。*7

 

nyanmage00.hatenablog.com

2016.7/2追記:後編のリンク追加。うまくつながっていませんが、逆裁6発売で飛んできてくれる方がいらしたようなので一応。 

 

*1:『2』4話で成歩堂が信じているのは検事席の御剣なので、厳密に言うと他作品の依頼人への信頼とは違いますが、ここでは割愛します。

*2:ここで指摘した“信頼関係の不在”を逆手に取って、王泥貴法介にとっての“《真実》への過程”というテーマを掘り下げたのが『5』ですが、結果、オドロキくんが見事人気キャラとして返り咲いたのは大変興味深い事です。

*3:ここまでぶちまけておいていまさらですが、実は現在『4』のソフトが手元にありません。おそらくクリア後、ショックのあまり放り投げてそのまま紛失したと思われます。できるだけ検証はしたつもりですが、事実と異なるなど「異議あり!」と思われた方はご指摘いただけるとありがたいです。

*4:時系列を調べていたら『4』ラストから『5』開始まで半年しか空いていないことに気がつき「!?」となりました。やはりこの2作は別の世界線での話としか思われません。

*5:心音ちゃんに担わされた役割は“イキオイで突っ走る新米”、つまり『女版若ナルホド』だと思います。有能な帰国子女という設定のはずが、どういうわけか《気合いと根性!》が信条の体育会系娘になっていますが、面白いから良し。3話最高。

*6:(発想の逆転について)「成歩堂さんがいってました」という心音に対し、王泥貴の「そういえば聞いたことあるな」という台詞が成歩堂との微妙な距離感を感じさせて泣けます。先輩なのに・・・。

*7:こんなに長くなるとは書いた本人も思いませんでした。本題に入る前に5500字超、もう怖くて近日公開とか二度といえない。