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思考散逸

ネットの宇宙の片隅の論理と思考の実験劇場

〔訃報〕任天堂岩田社長逝去

その他 岩田聡

本日付で任天堂から発表があったようです。

任天堂の岩田社長が死去=55歳、DS、Wii開発 (時事通信) - Yahoo!ニュース

 

Twitterのトレンドには岩田社長、#Nintendo、岩田さん等の関連単語が並び、生前に直接関係のあった人もそうで無い方も関係なく、#ThankYouIwataのハッシュタグは今も伸び続けています。

 

故・岩田社長がユーザーにとって一番身近に感じられたメディアといえば『社長が訊く』と『ニンテンドーDirect』の2つだと思います。

私も一時期『社長が訊く』シリーズを愛読していた時期があったのですが、しばらく買いたいゲームがあまりなかった時期があり、ここ1~2年ほど任天堂発のニュースから離れていました。
今年の4月頃『ファイアーエムブレムif』の発売日発表があったのを機に、またときどきは目を通すようになり、岩田さんの病気の件もその時初めて知りました。
最近のDirectや『訊く』でまた元のように活動されているのを目にして、てっきり快方に向かったとばかり思っていました。

6月のE3に向けたツイートでは自らの病状をジョークの種にしていました。
私ははそれを見て「ああ、平常運行だなあ」と笑っていました。 
それなのに。


私は一介のユーザーであり、実際の岩田社長の人となりを知りません。
しかし生前に岩田さんがさまざまなメディアで発言したモノの考え方、人生哲学といったものには非常に興味を惹かれ、考えさせられました。

岩田さんの考え方が凝縮してまとまっていた記事は最近だとこれでしょうか。

www.4gamer.net

4gamerの記事です。
経営論、リーダー論など話題は多岐に及びますが、岩田さんが一番生き生きと楽しそうに語ったのは「MOS 6502」という、10代の頃に買ったCPUの技術についてのニッチな話題でした。
記事中で岩田さんの発言です。

私は,元々ロジック側――要するに「コト」について考えるのが得意な人間だったから,普通に生きていれば理系オタクとしての人生を歩んだはずなんです。だけど,たまたま“そうも言ってられない境遇”に陥って,「ヒト」の問題について向き合わざるを得なくなったんですね。 

 後半部分は自分が経営側に立つことになったいきさつについて述べられています。
相当に謙遜と韜晦が入った言い回しですが、岩田さん本人はおそらくプログラマーだった時が一番楽しかったのだろうと思います。
しかしHAL研社長を経て任天堂という有名企業の社長になった岩田さんの業績は、経営者として目覚しいものでした。

 

 岩田さんが社長に就任した13年前、ユーザーにとっての任天堂のイメージはあまりよいものではありませんでした。
もともとが花札などカードゲーム製造業だったこと、ビデオゲーム黎明期の頃ゲーム機が置かれていた場所が素行のよくない若者のたまり場になりがちだったことなど、原因はいろいろあるのでしょうが、一番の原因は任天堂が社内情報をあまり公開しないことだったと思います。
初心会などの昔の独特な商習慣のイメージを引きずった、ユーザーから見て旧態依然という印象の企業である任天堂に就任した岩田社長は、『Direct』や『社長が訊く』を初めとした様々なメディアで積極的に発言し、そのネガティブイメージを吹き飛ばします。

 

今となっては珍しいものではないですが、メディアを通さず、サービスを提供する側がユーザーに『直接』情報発信するというのは当時はかなり新しいことでした。
そこでの岩田社長の発言は『我々はこういう考えでサービスを提供するものであり、ユーザーが取捨選択できるようにダイレクトに情報を発信する』というスタンスで一貫しており、発信される情報は『客が見て楽しめ、かつ有益な情報を得られる』ことを重視するものでした。
岩田社長が『直接』情報発信するとき、視線は常にユーザーの利益に対して向けられており、それが企業としてのマーケティングを目的とするものであっても、私たちは客として信頼を置くことができたのだと思います。

 

生前最後に発信された『訊く』はこちらです。
公開の日付から見ておそらく5末~6月上旬の収録だと思います。
体調も万全ではなかったはずですが、記事中の岩田社長は驚くほど普段通りです。

www.nintendo.co.jp

岩田さんがどこまで自分の病状を把握されていたのか、私にはわかりません。
ある程度は死期を覚悟されていたのか、あるいは突発的な病状悪化だったのか、それもわかりません。
しかし、もし自分の死が2ヶ月足らずの時期に控えているとしたら、私はここまで普段通り、あるべき様に振舞うことができるだろうか。それを思うと身が引き締まる思いがします。

 

岩田さんは最後まで『任天堂社長』という広告塔として、あるべき姿を貫いた。そう思います。

 

故人の冥福を心よりお祈り申し上げます。